タフェロEM10(エイズ治療薬)
最近では、個人の価値観の多様性が少しずつ受け入れられるようになってきており、その中でもLGBTQの方々の存在も少しずつ社会で受け入れられるようになってきました。そんな方々の中には、性別や性的指向によって、HIV感染リスクの高い性行為を行っている場合もあります。
タフェロEM10は、そんな方々のHIV感染を治療・予防するために開発された医薬品です。
なお、本ページは薬剤師が執筆しております。

薬剤師資格を有し、総合病院・国立私立大学で勤務。現在、美容専門学校に勤務し、講師業も担当しております。
さらに、医学誌編集経験を持つ看護師が最終確認を行い、医療の専門家による二重のチェック体制で情報の正確性を担保しています。

看護師資格を有し、総合病院で勤務。退職後、出版社に勤務し、医学誌の編集も担当しておりました。
※本ページの初稿は薬剤師が執筆しております。メドノア編集部が必要に応じて加筆・修正を行いますが、その際も情報の正確性と信頼性を損なわないよう細心の注意を払っています。
タフェロEM10の概要
- タフェロEM10は、デシコビ配合錠LTのジェネリック医薬品
- ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の増殖を抑える
- HIV感染の治療では、他の抗HIV薬を併用して治療が行われる
- HIV感染の予防療法として用いられる
タフェロEM10は、製薬会社ヘテロラボラトリーズが製造販売しています。HIV-1の増殖を抑える有効成分であるエムトリシタビンとテノホビルアラフェナミドを含んだ抗ウイルス薬の合剤です。
商品名 | タフェロEM10 |
---|---|
内容量 | 30錠 |
効果・効能 | HIV-1感染症の治療 |
有効成分 | ・エムトリシタビン 200mg ・テノホビル・アラフェナミド 10mg |
副作用 | 腎不全、または、重度の腎機能障害乳酸アシドーシス、および、脂肪沈着による重度の肝腫大(脂肪肝)など |
形状・剤形 | 錠剤 |
ブランド | ヘテロラボラトリーズ |
タフェロEM10はこんな方におすすめ
- 性別や性的指向に関わらずHIV感染のリスクが高い性行為を行う方
- HIV感染リスクが高い方法で注射薬物を使用する方
- 直腸への淋病、クラミジア、梅毒の感染の可能性がある方
- HIV感染率の高い国への渡航予定のある方
タフェロEM10の有効成分について
タフェロEM10は、HIV感染症の治療・予防に用いられるデシコビ配合錠LTと同じ、エムトリシタビンとテノホビル・アラフェナミドの2つの有効成分を含んだジェネリック医薬品です。
この有効成分は、HIV-1の増殖に関係する逆転写酵素を阻害することで、ウイルスのRNAからDNAを生み出すのを阻害し、体内のウイルスの増殖を抑えます。

日本で使用可能な抗HIV薬は、作用機序の違いにより核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)、非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)、プロテアーゼ阻害剤(PI)、インテグラーゼ阻害剤(INSTI)、侵入阻害剤(CCR5 阻害剤)、カプシド阻害剤(CAI)に分類されます。
これらの 抗ウイルス薬を組み合わせて治療する抗レトロウイルス療法(ART)が標準治療として行われます。
タフェロEM10の効果・効能
- HIV-1感染の治療・予防
エムトリシタビンは、細胞内酵素によりリン酸化されエムトリシタビン5′-三リン酸となることで、DNA鎖伸長を停止させることでHIV-1逆転写酵を阻害します。
テノホビルアラフェナミドは、末梢血単核球及びマクロファージ中のカテプシンAにより加水分解を受けて、細胞内にテノホビルを送達。その後、細胞内酵素によりリン酸化を受け、テノホビル二リン酸となることでDNA鎖伸長を停止させHIV-1逆転写酵素の活性を阻害します。

抗HIV薬の中でHIVを抑制する効果がより強力な薬剤を「キードラッグ」、キードラッグを補足しウイルス抑制効果を高める役割をもつ薬剤を「バックボーン」と呼びます。
タフェロEM10は、バックボーンにあたります。
タフェロEM10の服用方法・使用方法
1回の用量 | 1錠 |
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1日の服用回数 | 1回 |
服用間隔 | 24時間 |
服用するタイミング | 特に指定なし |
使用上の注意
- この薬だけでは根本治療はできません。
- この薬を服用する際には、抗HIV薬のリトナビルまたはコビシスタットを併用してください。
- エムトリシタビンとテノホビル・アラフェナミドに耐性を持つ場合には有効性が発揮されません。
- この薬を長期間服用する場合には、医師の指導・監督下で行ってください。
- 服用後に異常が認められた場合には、直ちに服用を中止して医師の診察を受けてください。
HIV予防に用いる場合の飲み方
曝露前予防PrEP療法で用いる場合
2022年に日本エイズ学会から『日本におけるHIV感染予防のための曝露前予防(PrEP)利用の手引き』が発行されました。そこでは、ツルハダ配合錠は日本でも認められたPrEP療法とされていますが、デシコビ配合錠(タフェロEM10の先発品)はPrEP療法での使用は得られていません。
しかし、海外ではPrEP療法として、ツルハダ配合錠とデシコビ配合錠の2つで予防を行っています。そのため日本では、国立国際医療センターエイズ治療・研究開発センター(ACC)のSH外来でデシコビ配合錠を用いたPrEP療法も選択肢として推奨しています。
PrEP療法のやり方
- デイリーPrEP療法
- 1日1錠を毎日ほぼ同じ時間に服薬する方法で、HIV感染のリスクが高い性行為を行う方のHIV感染を防ぐことができます。デシコビ配合錠(タフェロEM10の先発品)は、シスジェンダー男性とトランスジェンダー女性のみデイリーPrEP療法の有効性が確立しています。
性行為を行う7日前から開始することでHIV感染の予防効果が得られます。 - オンデマンドPrEP療法
- オンデマンドPrEP療法は、シスジェンダー男性やホルモン補充療法を行なっていないトランスジェンダー女性に推奨されています。
HIVに感染する可能性のある性行為の2〜24時間前に抗HIV薬を2錠服用し、その後、1錠目の服用から24時間後に3錠目、48時間後に4錠目を服用するやり方です。
性行為が1日以上続く場合には、24時間ごとに1錠を飲み続けることで予防効果を維持できます。
しかし、ツルハダ配合錠でのみ有効で、デシコビ配合錠(タフェロEM10の先発品)では有効性が確立していません。
PrEPを行う際には、ツルハダ配合錠、デシコビ配合錠(タフェロ10EMの先発品)に代わって、あるいは追加して、他の抗HIV薬は使用してはいけません。
曝露後予防PEP療法で用いる場合
2013年の米国CDCガイドラインでは、HIV感染のリスクが高い場合に曝露後4週間(28日間)抗HIV薬の多剤併用投与を開始することを推奨しています。
PEP療法の最大の予防効果を得るためには、曝露から予防服薬までの時間はできる限り短くすることが大切です。曝露後から72時間以上が経過した場合には、曝露後予防の効果はほぼ期待できない可能性が高いと考えられています。

HIVに感染後も治療としては不十分であったことに気付かずに服薬していることで、抗HIV治療開始前の薬剤耐性変異獲得が報告されています。
薬剤耐性の結果が判明してから必要に応じて専門医療機関に相談して治療薬を検討する必要があります。
タフェロEM10の警告・禁忌・副作用
警告
B型慢性肝炎を合併している方は、タフェロEM10の中止により、B型慢性肝炎が再燃するおそれがあるので、タフェロEM10の服用を中断する場合には十分注意する必要があります。
禁忌
- タフェロEM10の成分に対し過敏症の既往歴のある方
- テラプレビルを投与中の方
副作用
重大な副作用
- 腎不全または重度の腎機能障害
- 乳酸アシドーシス及び脂肪沈着による重度の肝腫大(脂肪肝)
他にも副作用として頭痛、悪心、下痢、放屁、疲労などが報告されています。
タフェロEM10の他の薬との相互作用
併用しないこと
- テラプレビル
テノホビル・アラフェナミドの抗HIV-1活性が低下するため、タフェロEM10の効果が減弱する可能性があります。
併用に注意すること
- カルバマゼピン
- フェノバルビタール
- フェニトイン
- ホスフェニトイン
- リファブチン
- リファンピシン
- セイヨウオトギリソウ(セントジョーンズワート)
これらの薬や成分と併用することにより、テノホビル・アラフェナミドの血中濃度が低下する可能性があります。
- アシクロビル
- バラシクロビル
- ガンシクロビル
- バルガンシクロビル
これらの薬や成分と併用することにより、テノホビル・アラフェナミドの血中濃度が上昇し、副作用や思わぬ体調不良が増加する可能性があります。
- 腎毒性のある薬や成分
主に鎮痛薬、抗がん剤、抗菌薬、造影剤で腎毒性が起こりやすく、腎臓の状態によっては他にも多くの薬で可能性があります。
タフェロEM10の注意事項
- B型慢性肝炎を合併している方では、タフェロEM10の服用中止により、B型慢性肝炎が再燃するおそれがあります。
- 腎障害(クレアチニンクリアランス30mL/min未満)を有する人は服薬できません。
- 妊婦または妊娠している可能性のある女性、トランスジェンダー男性はテノホビル・アラフェナミドの胎児への移行が報告されています。
- テノホビル・アラフェナミドの母乳移行が報告されているため授乳中の服用については医師に相談することが必要です。
- 高齢者の場合には、肝機能、腎機能、心機能の低下、合併症、併用薬等を確認したうえで、服用を検討しましょう。
- タフェロEM10の服用を検討する方は 可能であれば医療機関で薬剤耐性検査(遺伝子型解析あるいは表現型解析)を受けましょう。
タフェロEM10のよくある質問
どんな人が飲んだ方がいいですか?
性別や性的指向に関わらずHIV感染のリスクが高い性行為を行う方 、HIV感染リスクが高い方法で注射薬物を使用する方、直腸への淋病、クラミジア、梅毒の感染の可能性がある方 、HIV感染率の高い国への渡航予定のある方が主に該当します。
飲み忘れても平気ですか?
飲み忘れに気が付いたのがその日のうちであるならば、気が付いたときに、その日の分を飲んでください。
もし、気が付いたのが次の服薬時間に近い場合には、飲み忘れた分は服用しないで、次の日から通常どおり服用してください。
また、飲み忘れたからといって次の日に2回分を1度に服用するのは控えましょう。
食事の影響はありますか?
食事による影響はないとされています。しかし、高脂肪食(800kcal、50%が脂肪由来)と共に服用すると本剤の成分の1つであるテノホビル・アラフェナミドの血中濃度は高くなることが報告されています。
もう1つの成分であるエムトリシタビンの血中濃度は低くなることも報告されています。
HIV以外の感染も予防しますか?
HIV-1感染症にのみ適応のある薬になります。治療と予防目的以外では使用しないようにしてください。
PrEPを行っていれば、避妊は必要ないですか?
PrEP療法を行っていても、HIV感染リスクは下げられても、性感染症の予防にはつながりません。コンドームなどの使用により安全な性行為を行うことが大切です。
感染したかもしれないのでPEPを行いたいのですが
感染の可能性のある行為の後で72時間以内に始める必要があります。継続期間は28日間続ける必要があります。
適切な治療を行うためには、遺伝子検査による薬剤耐性を把握することも大切ですので、医療機関の受診を推奨します。
タフェロEM10に関連する添付文書等の参考資料
- Tafero EM 10 Tablet(公式サイト)
- デシコビ配合錠LT,デシコビ配合錠HT(患者向医薬品ガイド)- PMDA(PDF)
- 抗HIV治療ガイドライン(2025年3月発行)- 令和6年度厚生労働行政推進調査事業費補助金エイズ対策政策研究事業:HIV感染症および血友病におけるチーム医療の構築と医療水準の向上を目指した研究班(PDF)
- 日本におけるHIV感染予防のための曝露前予防(PrEP)- 利用の手引き【第1版 ver.2.0】- SH外来(エスエイチ外来) – Sexual Health外来(PDF)
- PrEPの基礎知識 – SH外来(エスエイチ外来) – Sexual Health外来
- 抗HIV薬 Q&A Ver.12.0 – 独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター 薬剤部、感染症内科、HIV / AIDS 先端医療開発センター(PDF)
※本ページでは、日本語の公的資料(PMDA・JAPIC等)と、英語の公的資料(各国規制当局等)を併記しています。いずれも一次情報ですが、国・地域ごとに適応症・警告・禁忌・推奨用量などが異なるため、内容をよく比較のうえご判断ください。
※服用前には必ず輸入品に記載されている英文の説明も確認し、不明点は医師・薬剤師にご相談ください。