近年、会議で「とりあえずChatGPTに聞いてみよう」という場面が増えました。確かに、アイデアはすぐに出てくるのですが、似たような案ばかりになるという声も聞かれます。
最新の研究で、この問題に対する解決策が見えてきました。重要なのはAIをいつ、どのように使うか、そして人のアイデアとどう組み合わせるかです。
AIだけに頼るのではなく、自分の考えや検索結果、異なる視点を取り入れることで、アイデアの幅を広げられるかもしれません。
今回の記事では、これらの研究成果をもとに、AIとのより良い付き合い方についてご紹介します。ブレインストーミングの質を高めるヒントとして、ぜひご活用ください。
- Meincke L, Nave G, Terwiesch C. ChatGPT decreases idea diversity in brainstorming. Nature Human Behaviour. 2025;9(6):1107–1109.
- Mack Institute (Wharton). New in Nature: ChatGPT decreases idea diversity in brainstorming. 2025-05-14
(研究の要点解説) - Axios. Study: ChatGPT’s creativity gap. 2025-06-18
(一般向け報道) - Wan Y, Kalman YM. Using Generative AI Personas Increases Collective Diversity in Human Ideation. arXiv preprint, 2025
(多様性低下を抑える設計の可能性)
本研究の要点は以下の通りです。
- AIはアイデアの質を高めるのに役立つが、多様性の面では弱点がある
- 人が考える場合は、様々な発想が生まれやすい
- まず人がアイデアを広げ、その後AIでブラッシュアップするのが良い
- まず、AIを使わずに、一人あたり3〜5個のアイデアを出す
- 次に、AIにアイデアの要約と発展案の作成を依頼する
- 最後に、人が内容の重複をチェックし、最終決定を行う
- AIの提案につられないようにするため、最初はAIの生成結果を見ない
- 類似のアイデアが増えたらAIを一度止める
- 記録はAIの出力ではなく、人の言葉で残す
なお、本記事の内容については、表現に不自然な点がないか、医学雑誌の編集にも携わっていた編集の専門家が確認済みです。

編集プロダクションでの勤務経験があり、医療系出版社の月刊誌にて校正、校閲業務実績がございます。
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研究の概要
2025年にNature Human Behaviourに掲載された研究で、ChatGPTのような生成AIがブレインストーミングにどう影響するかを調査しました。
結果、AIを使うとアイデアの数は増えますが、似た内容になりやすく、独創性は下がることが分かりました。
これはAIが過去のデータを元に平均的な回答をするため、斬新なアイデアを出すのが苦手だからです。
研究者は、AIはあくまで量を増やすためのツールと考え、最終的なアイデア選びは人間が行うべきだと述べています。
いつ | 2025年5月 |
---|---|
誰が | ペンシルベニア大学ウォートン校の研究チーム(Meincke・Nave・Terwiesch) |
対象 | オンライン実験の参加者(複数課題でChatGPTの使用) |
分析方法 | 参加者を「ChatGPTを使うグループ」と「使わないグループ」に分け、生成されたアイデアを比較 ・アイデアの質(創造性・有用性)は、専門家による採点や評価指標を用いて数値化 ・アイデア同士の多様性(どれくらい似ていないか)も測定 |
結果 | アイデアの質は向上する ・ChatGPTを使った人のアイデアは、平均的に高評価を得やすい ・つまり「そこそこ良い」アイデアを効率的に量産できる 多様性は下がる ・出てきたアイデアは似通いやすく、独創性や幅広さが失われる可能性がある ・全体として見た場合、バリエーションが乏しくなる 人間とAIの協力関係 ・人間だけで考えると、アイデアの質はばらつきが大きく、良いものもあればそうでないものもある ・人間だけの場合、多様性はあるが、質の安定性には欠ける ・AIを使うことで、アイデアの質はある程度改善されるが、似たような方向に偏るリスクがある |
AIで似たようなものが作られるのは「平均化」が原因
大規模言語モデル(LLM)は、大量のデータをもとに「もっともらしい」回答を生成する能力に長けています。そのため、文章の表現やアイデアの構成が似通ってしまい、使う人が違っても同じような方向になりがちです。
実験では、AIの提案を先に見た人は、名前や構図などが似たアイデアを出しやすいという結果が出ています。
この「平均化」の影響を避けるために、まずは人間だけで自由にアイデアを出すのが良いでしょう。
その上で、AIを使って情報を整理したり、まとめたりすることで、アイデアの多様性を維持しつつ、効率的に改善できます。
AIを効果的に使う3つのステップ
AIを上手に使い、色々なアイデアを出すには、以下の3つのステップを踏む方法が良いでしょう。
まずはAIを使わず、自分でアイデアを出します。手書きでもOKです。
こうすることで、AIに邪魔されずに、自分らしいアイデアが生まれます。
次に、AIを使って、ステップ1で出たアイデアを整理・分類します。
AIに、アイデアに抜けがないか、偏りがないかをチェックしてもらいましょう。
AIはたくさんの情報を早く処理できるので、このステップで使うと便利です。
最後に、人が基準を決めてアイデアを選び、同じようなアイデアをまとめます。
AIの提案を参考にしつつ、どれを選ぶかの最終判断は人が行います。
上記の方法なら、人のアイデアとAIの整理能力を組み合わせて、色々な面白いアイデアを生み出せるでしょう。
多様性を守る工夫
ChatGPT を使ったブレインストーミングは、人間だけの場合と比べて、アイデアが似通ってしまい、独創性が下がる場合があるかもしれません。AI は過去のデータなどに基づいて回答するので、どうしても無難なアイデアに偏りがちです。
しかし、工夫次第で問題は回避できます。例えば、性別、年齢、職業、価値観などが異なるペルソナを設定して質問すると、AI はそれぞれの視点からアイデアを出すことができます。これにより、アイデアの重複を減らし、多様性を確保できます。
AI はあくまで補助ツールとして使い、最終的なアイデアの選別や組み合わせは人間が行うことで、創造性を保ちながら幅広い発想を生み出せます。AI の効率性と人間の独創性をうまく組み合わせることが、効果的なブレインストーミングのポイントです。
クリエイティブの現場で気をつけること
クリエイティブの現場でAIを使うときは、下記のポイントに注意しましょう。
- ネーミングやキャッチコピーを考える際、AIは似たようなものを出しがちです。まずは、実際に体験したことや社内で使われている言葉を参考にすると良いでしょう。
- 画像や動画の企画でも、最初にAIの例を見るのは避けてください。もし見てしまったら、別のツールを使って、発想を広げましょう。
- 議事録は、AIで要約したものをそのままにするのではなく、「なぜその結論に至ったのか」という経緯を、人の言葉で記録することが大切です。
AIのブレインストーミングに関するよくある質問
まとめ
人工知能は情報整理や要約、改善案の作成に役立ち、効率的にアイデアを具体化できます。一方、人間は自由な発想や多角的な視点を持っており、多様なアイデアを生み出すのが得意です。
そのため、ブレインストーミングや会議では、まず人間が自由にアイデアを出し、その後にAIで要約、整理、改善案を作成するのがおすすめです。
まずは次回の会議で、人とAIの順番を意識して進めてみましょう。ちょっとした順序の工夫で、アイデアの広がりと整理の両方を手に入れられるかもしれません。
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